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 大学生の長男を連れてモーツアルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」を見た。


 歌も演奏も今ひとつ、演出の意図も訳がわからなかった。ただ、帰りの電車の中で長男と交わした会話が面白かった。


 「ドン・ジョヴァンニは、ボクの知っているオペラの登場人物の中で最も尊敬に値する人物だ」と切り出したところ、「エッ」と驚かれてしまった。


 このオペラのストーリーはおおよそ次のようなもの。
 
ドンジョヴァンニ(スペイン語ではドンファン)は、権力をかさにする極悪非道の色事師。


ある日、ある女性の寝室に忍び込むが失敗。騒ぎを聞きつけた女性の父(騎士長)を刺し殺す。


その後、墓場に建てられた騎士長の石像から反省を促される。これを聞き入れず、不敵にも石像を夕食に招待する。


夕食を取っているドン・ジョヴァンニのところに石像が現れる。改悛を迫るがきっぱりと拒否。床が割れて地獄に落ちる。


 確かに、表面的にはドン・ジョヴァンニはやくざやチンピラ以下の人間。ただ、自らの悪を、命を賭して貫き通したところに魅力を感じる。


 こんな話をしたところ、「そういう考え方もあるんですか」とまったく取り入れてもらえない。長男にとってはドン・ジョヴァンニはあくまでも極悪非道の人間。


 息子の“健全な”感覚を評価すべきか、心のひだを理解しない幼さを嘆くべきか複雑な心境。


 でも、振り返ってみると、私のドン・ジョヴァンニ観も、昔どこかで読んだドンファン物語の受け売りかもしれないが……


 皆さん、どうお考えになりますか? 

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