大学生の長男を連れて、ワグナーの初期のオペラ「さまよえるオランダ人」を見た。「愛と救済」それに「自己犠牲」を描いた作品で、演奏もすばらしく感動した。
ただ、実のところ、演奏に聴き入るよりも、長い間忘れていた学生時代を回想することに夢中になってしまった。
大学2年の時に、ある教授に1年間にわたり、毎週1回、マンツーマンで指導を受けたことがある。大学生時代に、マンツーマン指導を受けた経験を持つ人は、そんなに多くはないのではないだろうか。
それは、「音楽」の研究会だった。その教授は、この時間を空白にしたかったらしく、受講にあたってとても厳しい条件をつけていた。ただ、私はそのことを知らずに第1回目の授業に出席した。
教授は驚いて最初は拒否した。しかし、最終的に「まあ、仕方がない。授業をやろう。テーマはワグナーにしよう」ということになった。ちなみに、私は経済学部の学生で、音楽は門外漢だ。音楽は好きだったが、深い意味があったわけではなかった。
その授業の最初のテーマが、この「さまよえるオランダ人」だった。
その後、1年間にわたり、ワグナーだけではなく、音楽学全般に指導を受けた。音楽学会にも入会させていただいた。1年間の授業が終わった後も、自分なりに音楽学の勉強を続けた。
そんなこともあり、一時は、大学卒業後に、もう一度、他の大学に学士入学(大学3年からの編入)して音楽学を学ぶことも真剣に考えた。ただ、目の前に就職試験も控えていた。
今から考えれば、人生の分かれ道の1つであった。結局、“無難な”就職を選び、サラリーマン人生を歩むことになった。
演奏を聴きながら、遠い昔に学んだワグナーの哲学の断片や、就職を選ぶか学士入学を選ぶか悩んだ日々を思い返した。
演奏後、長男に感想を求めた。あまり深い感動はなかったようだった。ただ、驚いたのは、彼にとって、「さまよえるオランダ人」は、単なる恋愛物語の1つに映ったようだった。
この作品は単なる恋愛ストーリーではない。現世を超越した「愛と救済と自己犠牲」の物語だ。同じ作品を見たのだが、見え方はずいぶん違っていたようだった。
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