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講師 山内 雄司

 授業開始時間が近づくと、生徒たちが「こんにちは!」という明るい声で入ってきます。私たちも即座に「こんにちは!」を返します。挨拶には「今日もよろしくお願いします。」という意味も込められていますし、親しみも湧きます。

 多くの生徒は意識しなくても自然に挨拶をしますが、なかには例外もあります。黙って入ってきて、どこに座ればいいのか指示されるまでじっと立ち尽くす、他の生徒のためにセッティングした機材のある席に黙ったまま座ってしまう、という姿も稀に見ます。

 人とのコミュニケーションが苦手で、なかなか自分から声を出せないという事情もあるでしょうし、「挨拶なんていらねえや。挨拶は先にした方が負けだ。」という妙な価値観を持っているのではないかと思える場合もあります。

 こんな生徒は少数派です。しかし、どこかでしっかり話をしないといけないと思い、機会を見つけて挨拶について話をするようにしています。

 オトナになれば、挨拶の大切さはイヤというほど学びます。オトナで挨拶をないがしろにする人は、それでも許される「大先生」か、かなり「ヘンなヒト」かどちらかです。オトナは挨拶が非常に大切であることを知っているし、逆に挨拶をしないとトラブルや不利益が生じることを知っています。それに、それ以上に、「素晴らしい挨拶」の文化を実践している人もいます。

 時と場合によっては挨拶が身の危険を避けることもあります。マフィア映画では、コワイ方たちが会うたびに相手を抱きしめ頬と頬をつける仕草をします。あれは「私は敵ではない。だから敵意や警戒心を持つな。」というメッセージだそうです。だいぶ前のことですが、アメリカで、ハロウィンで仮装した日本人学生が他人の家に入り射殺されるという事件もありました。私自身も、インドで警備員に銃を向けられたことがあります(一応、挨拶はしたつもりですが‥‥)。

 こんなことを考えると、挨拶抜きで他人の領域に踏み入ることが怖くなります。もちろん塾の教室に挨拶無しで入っても銃を向けられることなどありません。しかし、子どもたちを預かっている以上、私も少しでも不審に思える人が入ってきたらつい身構えてしまいます。

 子どもが挨拶をしない理由の1つは以上のような「挨拶抜きの怖さ」を知らないこと、そして、もう1つは、「挨拶をしたときの具体的なメリット」を知らないことだと思います。

 挨拶は人間関係をスムーズにするだけでなく、「挨拶をした方が強くなる」という側面もあります。洋の東西を問わず、文化的な伝承には礼法があります。武術や武道でも、試合や練習の前にはそれぞれの流派が定めた礼をします。私も教わって驚きましたが、きちんとした礼をした後とぞんざいな態度を取った後では、技のかかりから力の伝わり方など全く違います。礼には、明らかに「強くなる」という意味合いが含まれているのです。

 「ウソでしょう」と言われそうですが、すぐに試せる方法があります。二人一組で向かい合い、立ったまま腕相撲をしてみてください。勝ち負けでなく、どのぐらいの力が出るのか確認します。次に片方の人がきちんと礼をし、「よろしくお願いします!」とはっきりとした発声で挨拶します。その後に腕相撲をすると、挨拶をした人の力が強くなっていることがわかります。次に、先ほどきちんと挨拶した人が今後は崩れた姿勢で、「かかってこいよ」など礼を失した言葉を出します。その後に同様に腕相撲をすると、今度はかなり弱くなっています。これは挨拶や礼の効果のほんの一例です。

 勉強も同様です。きちんと挨拶や礼の作法を実践してから取り組むと、その効果はてきめんに変わります。付け焼刃であっても効果は実感できますが、これが習慣化し、板についてくるとさらに高い効果を発揮します。

 昔から伝わっている文化はバカにできません。なかには、一部の運動系の「礼儀」のような首を傾げてしまうものもありますが、価値の高いものもたくさんあります。

 子どもたちにも、授業を通じてぜひ挨拶や礼の効果を実感してもらいたいと願っております。

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