2019年11月号……『子どもの夢や目標』 講師/山内 雄司
「将来の夢ですか……、特に無いっす。」特に中学生や高校生から、こういう言葉を聞くことは珍しくありません。半数以上の中学生・高校生の正直な言葉なのだろうと思います。
こういう言葉を聞くと、大人としては、「最近の子どもは夢を持たない。何とも歯がゆい。」と思いたくなるかもしれません。また、「そのうち見つけてくれたらいいな。」と思っていると、結局大学生となって就職活動を始めるときまで見つからない、ということもよくあります。もっと言えば、就職できても、「別にこういう仕事をしたいわけでもないんだけど。」と言いかねないのが現実です。
言うまでもなく、早くからしっかりした夢や目標を持っている子どもは強いです。受験に向けて早くから準備ができるばかりではなく、毎日の勉強の意味がわかり、どこまで頑張らなければいけないのかという基準が生まれます。また、勉強を取るか、それ以外の遊びなどを取るかという選択に迫られたときに、「今回は遊ぶ代わりに、明日はこれだけ勉強しよう。」という計画性も育ちます。
だから、大人は子どもに夢や目標を持つことを願っています。しかし、多くの中学生・高校生は先述の通り、夢や目標を持てずに困っているわけです。そして、子どもとしては大人から、「夢や目標ももたないで……。」と言われると、そんな自分に罪悪感を持ちかねません。これもかわいそうな話です。
子どもの中には、自分の好きなことを目標にして達成できるツワモノもいます。野球が好きで、将来はプロ野球選手になろうと誓い、実現するひとなどがそうです。こういう人は子どもの頃から毎日8時間程の練習を続け、数々の賞を取ってきているわけです。しかし、多くの子どもは、将来の目標にしたいほど好きなことを見つけること自体が難しいのです。「野球は好きだけど、プロの選手になりたいかっていうと、それほどでもないなぁ。」と思ってしまいます。
意外に思われるかもしれませんが、子どもが自分の好きなことから将来の目標を持つのは難しいものです。
実は子どもが将来の夢や目標を持ちやすいのは、「他者への貢献」です。この話をすると、「ぼくはそんな高尚なことを考えていないよ。」と言われそうですが、本当なのです。
考えてみると、子どもに限らず、人が実に一所懸命に、そして我慢強くなるときがあります。それは、他者のためになる、役に立つことです。
守るべき家族ができたからと言って、急に勤勉になるという話はよくあります。自分のためであればできないような我慢でも、家族のためだと思えば耐えられるという人もたくさんいます。
子どもも、「同じ部のみんなのため」、「いつも優しくしてくれるあの人が喜んでくれるから」という理由で、厳しい練習を乗り越えるということはよくあることです。自分自身のためだと思えば決してやろうとしない近所の掃除でも、喜んでくれる人がいて、「君のおかげで助かっているよ。」と言われれば、またやろう、もっときれいにしようという意欲が湧いてくるものです。
子どもたちには、今の世の中にはこんなに困っている人たちがいる、こんなに解決しなければならない問題があるのだということに目を向けて欲しいと思います。そこから、自分がどんな力になれるだろう、自分はこういう形で助けになりたいという目的が生まれてきます。そして、その意欲はかなり強いものになることでしょう。