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2002年10月号……『絶対評価』 塾長/青沼 隆

文部科学省の肝いりで、この春から2本の柱からなる教育改革が実施されました。その1つは学習内容を30%カットする「新学習指導要領」であり、もう1つが「絶対評価」の導入です。いずれも、ここ1~2年、マスコミでさんざん取り上げられてきました。前者の「新学習指導要領」については、ほぼ意見が出尽くした感があります。反対意見の大きさからか、文部科学省は、台形の面積や円周率(3.14)の復活など軌道をいくぶん修正しつつあります。「ひょっとしたらこの学習指導要領は10年も持たないのではないか」というウワサは今でもささやかれています。学習指導要領の改訂は「10年に1度」が原則です。仮に撤回されるとなれば異例の出来事となります。

後者の「絶対評価」については、ようやくこの1学期の通知表の輪郭が出そろってきました。ただ、残念ながら、「絶対評価」の全貌が明らかにされることはありません。得られる情報はすべて断片的なものに限られ、それが本当に全体を反映しているかどうか、誰もはっきりしたことを知りません。本来ならば、文部科学省が実態を調査して公表すべきだと思いますが、今のところこのような動きはまったくありません。

「絶対評価」も「相対評価」もそれぞれ一長一短あります。ただ、ここで大切なのは、どちらが評価として優れているのかという議論ではなく、高校入試の合否判定に使われるに当たって、その公平性に問題があるのかどうかということです。今でも、新聞などにエライ人が「絶対評価は×××の観点で好ましい」とか「評価はそもそも×××の観点から相対評価が好ましい」的な論調を展開していますが、私にはどうもピンときません。そんなのんびりしていることを言っている暇があったら、現実の教育現場の混乱をどのように解決するかを考えた方がよほど意味があると思います。

絶対評価の真の問題は、中学の成績が高校入試の合否に相当程度、しかも直接に影響を与えることです。例えば、県立高校では入学者の50%が「特色化選抜」(昨年までの「推薦入試」)で決まります。合否基準は明らかにされていませんが、過去のやり方をトレースすると、恐らく、内申書の成績によってほぼ合否が決まります。私立高校も同様です。私立高校は「推薦入試」によって入学者の半数以上が決まる場合が多く(高校によって事情は異なるが)、その合否は学校の通知表の成績によって事実上決まります。(推薦入試の多くは形式に行われるだけです。)
中学校の成績評価は、小学生のように単なる学校の評価ではなく、高校入試を「肩代わり(代行)」しています。もし、その評価に公平性がないとしたら、「高校入試そのものに公平性がない」ということになります。

ですから、「絶対評価」の問題は、少なくとも現在の高校入試制度を前提に限り、「公平」なのか「不公平」なのかの観点で論ぜられるべきです。そして残念なことに、絶対評価は相対評価にくらべて「不公平」にならざるを得ない宿命を持っています。なぜなら、通知表の1~5は基本的には教師の主観によって決められ、しかも、個々の中学や教師の主観が一律ではないからです。中学によっては、「これまでの評価基準をあまり変えないように(要するに従来同様の相対評価で成績をつけるように)」という校長の指示があったそうですが、もちろん、すべてではありません。相対評価から絶対評価に移行する中で、全般的に成績は「甘く」なったといわれています。しかし、個々の中学や教師の基準は同じではありません。「甘く」なった中学の生徒は「得」をして、そうでない中学の生徒は「損」をしています。

現実問題として、「5」が2桁%(相対評価では7%)がついている中学があったり、「1」は不登校の生徒だけにしかついていない中学もあります。技能教科の時間数が減ったため、教師が生徒の名前と顔を一致しないまま評価をしているケースもあるそうです。これから数年間は高校入試の現場は大混乱するのは間違いありません。特に、今年の中3生はこの渦に巻き込まれた中で決断を下さなければなりません。混乱の時期にあっては、情報の洪水から正しいものを取捨選択して、合理的に判断することが特に求められます。学習指導面はもちろん、情報収集の面でもお役に立てる塾でありたいと念じます。

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