2014年1月号……『教師の役割』 塾長/青沼 隆
昨年末、伸栄学習会は日建学院と提携して、同社の持つ膨大な映像教材を活用する権利を得ました。昨今、さまざまな教育機関が映像教材を作成しており、パソコン、タブレット、携帯電話などを組み合わせた通信教育も珍しくなくなりました。伸栄学習会が映像教材を作り始めたのは今から10年ほど前です。当時、映像教材を使った授業を行っている塾はほとんどなく、同業の塾などから「奇異」の目で見られていたことを思い返すと隔世の感があります。
映像教材は便利なシステムです。一昔前なら、教科書や参考書などを使って説明すべきところを、映像が説明してくれます。今の子どもには、文字より映像の方が容易に情報が伝わります。ただそうはいっても、映像もしょせんは教材の一部です。あらゆる教材が万能でないのと同様に、映像も万能ではありません。
★プレゼンテーション
長年、塾で子どもたちと接してきて、誤解を恐れずに端的に表現すれば、教師の役割は2つに集約されると感じています。1つが「プレゼンテーション」、もう1つが「カウンセリング」です。
「プレゼンテーション」とは講師から子どもに対する情報伝達です。例えば、教科の解説や問題の解き方の説明がこれに当たります。学校や塾で行われている一斉授業の場合、授業時間の過半数がこれに当てられています。プレゼンテーションの特色は「再現性」です。つまり、同じ内容がくり返されることです。教師の語り口や、声の大きさなどは状況によって変わります。アドリブも変わるかもしれません。しかし、話の本筋は、いつも変わりません。なぜなら、学問の内容そのものが変わることがないからです。
従って、プレゼンテーションは機械化、つまり映像化することが可能です。同じ授業のくり返しなら、人間が毎回行う必要はありません。映像にすれば、いつでもどこでも見ることができます。下手な教師の実演よりも、上手な教師の映像の方がインパクトがあります。もちろん、映像よりライブの方が臨場感で勝るという問題は残ります。ただ、現実問題として、授業の下手な教師にウンザリした経験は多くの方がお持ちかと思います。
映像は「プレゼンテーション」の一部を置きかえることができます。ただ、授業は「プレゼンテーション」だけでは完結しません。なぜなら、子どもが教師の話を正しくキャッチして理解するとは限らないからです。会社で行われる会議でも、A氏が話す内容をB氏やC氏が正しく理解するとは限りません。ましてや教育現場では、大人の社会では想像できないほど情報伝達の混乱が生じます。
★カウンセリング
そもそも、子ども教師の話なんか聞いているとは限りません。勉強の嫌いな子どももいます。友だちとケンカをしてムシャクシャしているかもしれません。部活で疲れ切っているかもしれません。大人のように、一定のモチベーションが保たれている保証はどこにもありません。
これまでの勉強に「穴」がある子どももいます。穴を埋めないで、当日の授業を理解するのはそもそもムリです。その他、子どもの性格、理解のスピード、得手不得手等など、教師と子どもの間の情報伝達を阻害する要因はたくさんあります。
これらの情報阻害を回避するのが「カウンセリング」です。子ども一人ひとりの理解状況を把握する。わかっていなければ再度の説明を、誤解しているなら修正を、定着していないなら補充をしていくことなどです。これは「プレゼンテーション」の再現性に対して、毎回、子どもの状況に応じて異なった対応が求められます。カウンセリングには再現性はまったくありません。子どもの状況は常に異なるので、対応方法は常に変化します。
カウンセリングの第一歩は質問です。子どもの状況がわからなければ対処ができないからです。プレゼンテーションの伝達力に対してカウンセリングでは的確な質問力が求められます。伸栄学習会の個別指導でプロ講師を配置している理由はここにあります。個々の子どもの状況に応じた対応を行うのはアルバイトでは不可能だからです。
伸栄学習会では今後とも映像教材を拡充していく方針です。ただ、指導のポイントはあくまでも「カウンセリング」です。今後とも講師研修などを充実して、この力を拡充していきたいと考えます。