2011年2月号……『意思疎通』 塾長/青沼 隆
年が明けてこの時期になると、教室の中はピリピリした緊張感に包まれます。これまでノンビリしていた受験生も、さすがに焦りを感じています。通塾回数も増えますので、教室の子ども全体に占める受験生のウエイトも高まります。この子たちが真剣に取り組んでいるので、受験生以外の子どもたちにもその熱気が伝播します。
緊張感や焦りを感じるのは子どもばかりではありません。私たち講師も同様です。私よりずっと年長のある塾長も、先日、「何年やっていても、この時期は緊張します。」と言っていました。全く同感です。
面白いことに、この時期になると子どもたちとのコミュニケーションもスムースになります。私たち講師の言葉や意図を理解しようとしなかった子どもも、打てば響くようになります。「この問題をやってごらん」と問題を提示すると、以前だったら「なんでこんなのやるの」と反抗的(?)な態度を示した子どもも、たちどころに意図を察知するようになります。講師が手を出しただけで、ノートを“サッ”と差し出すこともあります。言葉すら必要なくなります。
入学試験は子どもにとっても、保護者にとっても、もちろん私たちにとっても快いものではありません。しかし、この時期を経ると、子どもたちは確実に向上します。学力はもちろんですが、人間としても一回り大きくなるのを実感します。
子どもにとって自分の学力向上を実感できる時期です。講師への信頼も高まります。それに、入学試験という危機に立ち向かう連帯感も、意思疎通をスムースにしているのかもしれません。
ご家庭での子どもの様子はよくわかりません。保護者の方と面談すると、「受験生の子どもは扱いづらい」という声も聞くことがあります。しかし、塾ではそのように感じることは全くありません。子どもたちは素直で真剣で、聞き分けも申し分ありません。入試という危機は、講師と子どもの人間関係を深めてくれます。意思疎通はその表れの1つかもしれません。