2010年4月号……『宿題』 塾長/青沼 隆
「宿題」という言葉の響きは美しくありません。この言葉から、子ども時代の楽しい思い出を連想される方は、極めて少数派だろうと思います。多くの方は、夜遅くまで苦しんだ記憶や、夏休み終盤の思い出などが呼び起こされるのではないかと思います。
しかし、不思議(?)なことに、多くのご両親さま、特にお母さまは「宿題」が好きです。面談の際に「宿題を多くしましょう」という提案をしますと、ほぼ、100%の方が賛同されます。子ども時代、恐らく、大キライだった(はずの)宿題が、親になると大好きになるのですから、人間というのは面白いものです。
かく言う私自身も、子ども時代、もちろん宿題は大キライでした。これにまつわる忌まわしい思い出もたくさんあります。そんな私も、大人になって、塾の教師という立場になると、毎日、子どもたちに宿題を課しています。これも妙なことです。
子どもなら誰もがキライな宿題、そんなものを課すのはなぜでしょうか。学習習慣を身につけること、自ら勉強する姿勢を身につけること、家庭での生活リズムを整えること………等など、いくつもあります。でも、最も大切だと思うのは、“人間は忘れる動物”だということです。
ドイツの心理学者エビングハウスは100年前に「忘却曲線」を提唱しました。彼の説によると、人間は、1時間後には覚えた事がらの56%を忘れ、1週間後には77%を忘れるとのことです。ずいぶん昔の実験結果ですが、多くの教育関係者はこの説を支持しています。私自身の塾の経験でも「正しい」のではないかと感じています。
つまり、この説に従うなら、もし、子どもが授業を受け放しで復習をしないなら、1週間後には、せっかく前週で学んだことの77%を忘れてしまうということになります。そして、子どもの理解に全面的に合わせて授業を進めれば、今週の授業の3/4は前週の復習に費やされることになります。反対に、復習をそこそこにして新しい内容に入れば、子どもは「わからなく」なります。いずれにしても、勉強が積み重なっていくことは決してありません。
宿題は「忘却曲線」への対抗策です。教師として感じているのは、「わからない」ことを「わからせる」のは教師の責任、しかし、「わかった」ことを忘れないようにするのは子どもの責任、ということです。この責任を果たしてもらうための具体的な対策が、つまり、あの忌まわしい「宿題」です。
伸栄学習会では、毎回、必ず、宿題とミニテストの練習を課しています。長年の経験で、これをするだけで、少なくても学校の成績は、必ず、上がります。しかも、そのために費やされる時間は、1週間(1科目)で僅か1時間。実は、もっともっと勉強をして欲しいと願っています。しかし、せめて、1時間の勉強はしっかりやって欲しいと願っています。