2017年4月号……『何の役に立つのですか』 講師/山内 雄司
つい先日ある生徒から授業中にこんなことを聞かれました。
「こんなの、何の役にたつんですか? 算数とかで充分じゃないですか?」
数学の因数分解を扱った授業だったのですが、その生徒はややイライラした表情でこう聞いたのです。彼にとっては、こんな面倒くさいことを覚えなければならないのかという不満があったのでしょう。今まで多くの生徒たちと授業をしてきました。そういう気持ちもわかります。
さて、実はこういう質問というか不満というか、こういう言葉を投げかけられることは今まで何回もありました。そのたびに、なるべくしっかり答えなければならないと思っています。
今回の問いには、私は彼とこう話しました。
「算数は何のために身につけるかわかる?」
「まぁ、日常の計算とか……」
「そう。買い物をするとか、貯金をするとか。簡単な工作にも使うね。他にもいろいろあるけど、生活の中で使える。だけど、それだけでなく、多くの人の役に立ちたいとか、困っている人たちを救いたいと思ったらどうだろう?」
「……さあ?」
「地球の食糧事情をよくするとか、大気汚染を防ぐとか、事故を起こさない橋を造るとか、数学はそういうことに欠かせない。飛行機を安全に飛ばすにも、効率のいいエネルギー消費にするにも数学は使われる。今やっている展開や因数分解のそのずっと先にそういう数学がある。だから、今やっているこれが役に立つかと言われれば、君が思っているように『これだけでは役に立たない』。だけど、多くの人の役に立つ大きなことをするのなら、ここから先に発展させていかなければいけない。自分の買い物の計算をするだけで終わるか、もっと大きなことをできるようにするか、今はその間にいると思えばいい」
彼は納得した顔をしたわけでもないのですが、とりあえずうなずいて目の前の問題に取り組んでくれました。
こういう場合の答え方はいろいろあると思います。「えっ!?勉強が役に立たないと思っているの!?」と驚いて見せるのも、「学歴というのは日本ではね……」という話をすることもいいかもしれません。それで、本当に納得はしてもらえないかもしれませんが、子どもに「真剣さ」は伝えなければいけないという責任があると思っています。
次に同じ質問をされたときにどう答えられるだろうかと、いまだに緊張してしまいます。