2016年5月号……『センター入試は変わらない』 塾長/青沼 隆
センター試験は大学入試で重要な役割を演じていますが、その制度改廃を巡って迷走が続いています。大学入試制度の改革は、単に高校生(大学入試受験生)の学び方を変えるだけではなく、中学生にも小学生にも大きな影響を与えます。大学入試が変わるということは、当然ながら高校の授業に大きな影響が及びます。高校の授業が変わるということは、高校入試のあり方が変わります。高校入試が変わるということは、中学の授業に影響が及びます。また、私立中学の入試問題は、大学入試を意識して作られています。つまり、大学入試の中核を担うセンター試験のあり方は、日本の教育全体に大きな影響を与えることになります。
センター試験については、さまざまな批判があります。全問がマークシート方式で記述問題がない、つまり、思考力を問う問題になっていない。たった1回の試験で本当に受験生の実力を評価できるのか。複数回の実施をすべき。国語・数学といった教科型ではなく、複数教科を組み入れた合教科・合科目を導入すべき、などがその代表です。
センター試験の改革を巡っては、2013年に教育再生実行会議がセンター試験の廃止、新テスト導入の構想を打ち出しました。その後、議論が中教審に移され、さらに、高大接続システム改革会議にて具体的な作業に入り、2016年3月に最終報告が出されました。
保護者の方も、この議論を巡るマスコミ報道などをご覧になって来たかと思います。そして、何となく、センター試験が廃止されて、新しい理念によるテストが実施されるようになる、思考力や創造力を問う出題が増え、日本の教育も大きく変わる、というお気持ちになっているのではないでしょうか。事実、マスコミ報道や教育関連の雑誌には、この種の記事が満載されています。
確かに、教育理念としては間違っていないと思います。記憶力を中心に問う今の試験に制度には疑問があります。グローバル社会の中で活用できる人材には表現力が必須です。これらを勘案すると、新テストの方向が誤っているとは思えません。しかし、新テスト構想が打ち出された2013年から、一貫して申し上げているように、この「新テスト構想は実現しない」というのが伸栄学習会の見解です。理由は単純です。センター試験は50万人が受験する大規模なテストです。例えば、記述式を導入した場合、その採点に膨大な時間が必要になります。これらの現実的な課題を解決する方策がないまま議論が進んでいるからです。
従って、教育の理念の問題はともあれ、現実の大学入試は変わらない、つまり、高校も中学も小学校も授業のあり方は大きく変わらない、というのが伸栄学習会の現状の理解です。ただ、現状の暗記主義一辺倒がこのまま続くのかどうかはまた別の話です。例えば、高校の現場ではアクティブラーニング(受け身の授業から能動的な授業へ)が広まっているのも事実です。伸栄学習会としては、これらの動向を踏まえつつ、今後とも授業のあり方を研究していきたいと考えます。