2010年7月号……『スピード』 塾長/青沼 隆
「ぐずぐずしていないでサッサとやりなさい!」
多くのお母さま方は、お子様にこんな言葉をよく投げかけるのではないかと思います。いつまでたっても終わらない食事、延々と続く部屋の片付け、こんな姿を見せられると、堪忍袋の緒が切れそうになるのではないでしょうか。ところが、子どもは一向に意に返しません。母親は高まるイライラ感と戦いつつ、子どもの行動を急かしていることに、ある種の自己嫌悪を感じているようです。
しかし、この光景、家庭内の話に留まりません。実は塾の中でも起きています。部活の試合で疲れているとき、定期試験が終わって一段落したとき、それに不機嫌な顔をしているとき、子どもたちは、教師のイライラ感をよそに、ダラダラと勉強を進めようとします。子どもといえども人間。いつも万全な体制で勉強に臨めるとは限りません。こんなとき、講師は、子どもと間合いを取りながら徐々にペースに乗せていきます。
こんな子どもも、通常、次の授業ではまったく立ち直り、ふだんと同じように勉強に取り組みます。前回の倦怠感はまるでウソのよう。子どもの立ち直りの早さにはいつも驚かされます。ただ、問題は、やる気の有る無しにかかわらず、勉強中の動作の遅い子どもです。多くの場合、「書き」のスピードに顕著に表れます。
最近では学校の授業でも、スピードの遅さが授業に支障をきたさないように、先生が配慮して進めているようです。従って、本人は「マイペース」で進めることに問題は感じていません。もちろん、マイペースそのものは悪くはないのですが、勉強となるとすこし話が違ってきます。
スピードの遅さは、まず、勉強の効率面で不利です。人の半分のスピードしかなければ、2倍の勉強時間が必要になります。ライバルの2倍の勉強をするのはたいへんです。もちろん、生活設計も変えなければなりません。それにもっと大きな問題は、理解度に表れます。何かを覚えたり習熟するには、一度に大量の情報処理が必要になります。ところが、その処理速度が遅いと、その過程で情報が漏れてしまいます。
ですから、スピードが遅いと、理解が中途半端になってしまいがちです。以前、ある私立中学が以前、成績と学習態度の関連について調査したことがあります。その時に、書きのスピードと成績は強い相関関係のあることがわかりました。私の塾の経験でも、同じことを感じています。
日常生活の中で、何もかも、「急げ、急げ」と子どもをせかせるのはどうかと思います。しかし、少なくても、勉強では、動作の遅さは大きなハンデになります。このため、当学習会では、計算にストップウオッチを使ったり、作業に時間を区切ったりするなどのトレーニングを行っています。
しかし、勉強も日常生活の一部です。できれば、ご家庭でも、例えば、お手伝いとか、部屋の片付けなど生活の節目で、素早い行動を取らせていただくのも意味があるのではないかと考えます。