2016年10月号……『コミュニケーション』 塾長/青沼 隆
子どもたちは携帯電話が大好きです。LINEや各種SNSで友だちとしばしば交信しています。授業が終わるとカバンから携帯電話を取り出し、さっそく画面とにらめっこします。毎日これだけ友だちと交流しているのですから、さぞ、コミュニケーション力が鍛えられていることかと思いますが、私たち講師とのやり取りが昔とくらべてスムースになったかといえば、必ずしもそうではありません。一口にコミュニケーションと言っても、同世代の友だちとのコミュニケーションと、生活環境や世代の異なる人とのコミュニケーションは別ものであるようです。
これに関連して面白い統計があります。高校生を対象に、京都大学と河合塾が共同で行っている調査で、「他の人と議論することができる」「人前で発表することができる」「人の話を聞くことができる」など、いわゆるコミュニケーション力の高い生徒は、どんなタイプかを調べたものです。対象は「勉学タイプ」「部活動タイプ」「交友通信タイプ(友人との接触や通信頻度が高い)」「読書マンガタイプ」「ゲーム傾向タイプ」「学校行事不参加タイプ」に分類されています。どのタイプがコミュニケーション力に優れているとお思いになりますか?
一見すると、「部活動タイプ」や「交友通信タイプ」がコミュニケーション力に優れているように思われます。部活動は仲間や先輩・後輩との関係構築が必須です。交友通信タイプは友人との接触が密です。何れのタイプも、コミュニケーション力によい影響を与えているはずです。ところが、結果はこのようになっていません。何と、「勉学タイプ」が最も高い力を示しています。つまり、コミュニケーション力は、対人関係が得意ぐらいでは身につかない、そうではなくて、高い知的能力が求められる、というのが結論でした。
さらに、その後の社会人としての仕事の充実度との関連で見ると、「部活動タイプ」「交友通信タイプ」は、可もなく不可もなく、という結果になっています。意外な結果です。部活動で鍛えられた人物は仕事もしっかりやる、人との交わりが得意な人は仕事の幅が広い、というのが一般の常識です。しかし、ここでも、「勉学タイプ」が最も優れた成績を上げています。つまり、部活動だけ、交友通信だけでは、社会の荒波を乗りこえることが難しい、やはり、知的な能力の裏打ちが必要、それには勉学が求められるというのが結論のようです。
友だちとのつき合いは大切、部活動も大切、なのは間違いありません。ただし、だからといって勉学を疎かにしてよいわけではありません。「オレは学生時代、スポーツに没頭した」という社会的成功者はたくさんいます。ただし、学生時代にスポーツに没頭した人が、必ずしも社会的成功者になるわけではありません。その背後にある、知的な訓練を見逃してはならないと思います。