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2018年3月号……『なりたい者になれる資質』 講師/山内 雄司

小池一夫という劇画作家がいます。「子連れ狼」などのヒット作をたくさん出している方です。私事になりますが、私がある作品で受賞をした際に審査委員長を務めていらしたご縁で、ある一定の期間教えを請うことになりました。私自身は漫画家を志していたわけではありませんが、なにしろ劇画作家の大物ですから自然と漫画家志望の若者が集まり、先生から語られる内容もそれに合わせたものが多くありました。

印象に残る話はいくつも伺いましたが、その中のひとつ、特に生徒のみなさんと関わりが深いと思われるものをご紹介したいと思います。

私が小池先生のところに通い始めた初日に、先生は大柄な身体を揺すって漫画家志望の青年たちにこう話されました。

「今日からひと月、毎日机に1時間向かいなさい。それができるかできないか、それで本当に漫画家になれない奴はわかる」

要するに、別に何も描かなくていいので、とにかく毎日欠かさず1時間机に向かいなさい、ということです。そして、それができない者は漫画家になることはないと断言されているわけです。

そこに集っている者のほとんどは仕事を持っています。あるいは、朝から夕方まで学校に通い、その後にアルバイトをしている学生もいます。子どもがいればきちんと夕食をとらせ、お風呂に入れて次の日の準備も必要です。体調の悪いときもあるかもしれませんし、怪我をすることもあるかもしれません。

そんな状況でも「毎日1時間机の前に座っていろ」という課題は楽ではありません。言うのは簡単ですが、理由をつけて実践しないのも簡単です。

「遅くまで残業していたんだから仕方がない」「睡眠不足で身体をこわしたら本末転倒だ」「今度の日曜日に2時間座るから、今日は無しにしておこう」などなど、実行しない理由はいくらでも出てきます。そのうえ、当然のことながら「毎日1時間机の前に座った」からといってプロの漫画家になれるわけではありません。こんなに実行の難しい課題でも、ほんの一歩目に過ぎないのです。

縁があって私たちと学習に取り組む生徒のみなさんには、ぜひこの重要さを感じて欲しいのです。

部活で遅くなった。体調が悪い。眠い。宿題に取り組もうかと思ったけど、全然わからないから途中でやめた。明日の朝は試合で早いから睡眠をとらなければいけない。

なるほど、どれも「自宅で勉強しなかった理由」として実に「正当」に聞こえます。なおかつ、机に向かってもパソコン、ゲーム、スマホ、テレビなどなど、横道に逸らしてくれる「魔物」はたくさんあります。スマホをいじりながら1時間机に向かっても、それは皆さんの将来を作りません。

それでも「こうなりたい」という目標があるのなら、もしくは、その目標が見つかったときに充分に間に合う状態を作っておきたいなら、やはり取り組むべきです。

こう言うと、おとなでも難しいことを課していると思うかもしれません。「職業訓練」の仕事に関わってきた経験からも、こういうことができないおとなもたくさんいることを私も知っています。しかし、みなさんには「できるおとな」になって欲しいのです。決めた時間だけは机に向かい取り組んで下さい。そして、それを「時間管理帳」に書き留めて、ぜひ私たちと共有してください。

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