2003年1月号……『くり返し』 塾長/青沼 隆
人間は「忘れる動物」といわれています。何かを覚えた(覚えたつもり)でも、時間の経過とともに次々と忘れていってしまいます。この人間の記憶に関して、有名な実験を行ったのがドイツの心理学者エビングハウス(Ebbinghaus,Hermann1850~1909)です。彼は多数の被験者に、先入観の無い記号・文字・図形などの情報を与え、一定時間後にどのくらい記憶が残るかを調べ、そして、その結果を「エビングハウスの忘却曲線」というグラフにまとめました。下表がそのグラフてす。これによりますと、学習の記憶は,1時間後にはもう半分以上、1日たつとその70%を忘れてしまい、1週間後には何と18%しか残っていないとうことになります。ですから、何かを学んだとしても、それをそのまま放置しておけばほとんど何も残らないことになります。
最近の子どもたちの様子を見ていて、このエビングハウスの忘却曲線を意識させられることが多くなりました。せっかく理解した事がらが、次の授業の1週間後には何も残っていないケースが増えてきたからです。そして、この傾向は年々強まってきているような気がします。子どもたちは、新しい事がらやわからない事がらをを覚えたり、理解したりすることはわりと喜んでします。しかし、覚えたり、理解したことを維持することを嫌がります。新しい事がらに出会うのは新鮮だし、自分のレベルが向上していくのがよくわかります。しかし、それらを維持していくには地味な作業と忍耐力が求められ、しかも知的なおもしろさはあまりありません。それでも、以前の子どもたちは今の子どもたちよりは知識の定着ができていたと思います。よくご両親さま方が、「ウチの子どもは勉強のことになるとすぐ忘れてしまう」と嘆かれますが、恐らく、ご両親さま方が子ども時代だったときとくらべ、忘れる度合いはひどくなっているのではないかと思います。
原因は、もちろん、今の子どもたちの記憶力が悪くなったせいではありません。復習をしなくなったことにすべての原因があります。ひょっとすると、多くの子どもたちは、一度覚えた事がらはかなり長期間、場合によっては一生涯忘れないで維持できると錯覚しているような気さえします。自分の能力を客観化する力が弱くなり、自分に対する根拠なき過信の度合いが大きくなっているのかもしれません。ですから、くり返しの大切さがわからなくなり、その結果忘却曲線のワナに落ちている可能性があります。残念ながら、子どもたちが考えいるほど人間の能力は高くありません。覚えた事がらは次々と忘れていってしまいます。これをメンテナンスしていこうという強い意識がない限り知識は定着しません。
こんな反省もあり、今年は、当塾としては、この「くり返し」に重点を置いて指導を進めようと考えています。子どもたちの“自主性”だけに任せていたのでは、知識の定着を図ることは難しくなっています。授業でも、知識の伝授だけではなく、演習のくり返しをもっと取り入れる方向で検討を進めています。子どもたちが変化している中で、教育のあり方が従来と同じでは対応にずれが生じます。新しい子どもには新しい教育が必要だと痛感しています。本年もよろしくお願い申し上げます。